昔は何と、今とは比べものにならないほど、そりゃあ高価で贅沢品だった自転車やミシンが当たったとか、何の初期は文化住宅一軒が当たったんだよとか。そのっくらいお楽しみの多かったお年玉つき年賀はがきですけれど。皆さんはどのくらい当たったことがありますか? 切手シートが当たればいい方? だって、このところは“あけおめ”というと大半がメールだし。友達となら携帯でしょっちゅう喋ってるんだし、わざわざそんなの出すこともないわよぉと、
“今時のお人なら、少なからずそうなるところなんでしょうにね。”
顔の広い五郎兵衛にはたんと届くそれが、だが、自分の居場所を過去の知己へはあんまり明かしていないというお陰様、平八の手元へはあんまり届かないのが年賀状で。自分でそうしたのだから、当たり前ったら当たり前な話だが、それでも…何とはなく侘しいものを感じなくもなくて。何より、五郎兵衛へ下手に気を使わせるのもいやなのでと、元旦の午前中に届くそれ、まずはと自分が郵便受けから取り出して、ほとんどダイレクトメールもどきのしか届いてない自分宛のを抜き取ってから、五郎兵衛へ渡すのが例年のセオリーでもあるのだが。
「……♪」
それでも、此処へ居着いて5年も経てば、こちらで知り合った方々からの、真心籠もったはがきも届く。中には注文された路販車を届けた先からの、お礼状を兼ねてるものまで届いており。大活躍してますよとか、今話題のB級グルメの取材を受けましたとか、そんな嬉しいお話が添え書きにあったりし、愛車ですという写真を取り込んでおいでのものもありで。日本中に知己のいる五郎兵衛には全くの全然足りてないけれど、それでも毎年楽しみになりつつあったそんなお年賀のご挨拶。お正月を過ぎてもまた見る機会になるのが、そこへと印刷されてある番号を新聞なんぞに発表された番号と照らし合わせる一時で。
「シチさん、シチさん。」
「おや、こんにちはvv」
あんまり嬉しかったのと、生け垣越しに見やった先、お隣りさんもリビングではがきを広げておいでだったので。ついついお声をかけて手を振れば、顔を挙げた金髪の美丈夫が嫋やかな笑顔を向けてくれ。立って来てのガラス戸を開けて、よろしかったら寄ってきませんか? アタシもお茶にしようと思っててなんて、そんな気さくなお声をかけて下さる。ほとんど在宅で、主婦ならぬ“主夫”に徹しておいでの七郎次さんは、島田さんチの家事全般と、一家の様々な生活管理とそこへ関わる手続きや事務作業を引き受けておいで。気立てもよくって人当たりもやさしく、町内会での役員となったおりには、そりゃあてきぱきとした仕事ぶりが話題になった。事務仕事へも手慣れておいでだったし、手配への采配も迅速即妙なら、美麗な風貌や手際のいい話しぶりは営業にも打ってつけだろうから、どこへお勤めに出られても良いお仕事をなさるに違いなかろうに。ごくごく一般の主婦と同じく、家族たちへのお世話とそれから、お家の保全にのみ全力を投じておいで。大きな商社へお勤めの家長さんは、時々海外へも出張に出られるらしく、たいそうお忙しい身なのを気遣い支え続けるのはさぞかし大変なことだろう。また、最近同居を始めた高校生の男の子は、寡黙で大人しいものだから、こっちから話しかけないと要領を得ないものなのか、それは甲斐甲斐しくも手をかけておいでであって。
“…うん。シチさんでなけりゃあと、求められてのお務めですものね。”
初めてお会いしたばかりのころは、勿体ないことをして、何て妙なお人だろうかと、その境遇に???を重ねもしたけれど。時折、黒づくめのSPを家の周りに侍らせたり待機させての、誰か仰々しい人が来ていることもあるほどに、特別クラスの役づきな勘兵衛さんであるのなら。その周囲を遺漏が無いようにと整えるのは、並大抵の神経では勤まるまいし。先だっては久蔵さんまでもが、そういう黒づくめの方々に誘われてのお出掛けをなさってたくらい。
『あれは、剣道関係の招聘か何かだったのでしょう?』
さすが、連続全国チャンプは違いますよねぇ。もしかして、やんごとないお人へと練習をつけにって招かれたんでしょかと、こそりシチさんへ訊いたらば、
『あ、あの…えと…。』
『あ・ええ、はい。誰にも話したりはしませんて。』
うふふと微笑って差し上げれば、何とかホッとしてその胸を撫で下ろしておいでだったが。(…う〜ん・苦笑)
「やあ、たくさん届いてますねぇ。」
「ええ。もっともほとんど勘兵衛様へなんですが。」
社の方へと届いていたものも昨日持って帰っていただいたので、結構な量になっていてと。下1桁でまずはと仕分けをなさってたの、束ごとに確認しておいで。異様なほど見事な達筆で書かれたものも少なくはなく、そうまでお年だったかしらと、失礼ながら“あれれぇ?”なんて、こちらの家長である壮年殿の、知的ながらもどこか精悍な風貌を思い起こしておれば、
「ヘイさんは、何か当たってらしたのですか?」
「え? ええ・はいvv」
聞かれるのも嬉しい、切手シート以上の当たりがありましてと、当たっていたはがきを懐ろから引っ張り出す。
「なんとっ、有名産地にこだわった特別栽培米も選べる二等だったんですよぉ。」
「うわ、そりゃあ凄いや。」
ちなみに、デジカメやポータブルDVDプレイヤー、空気清浄器も当たっているのだが、それらはまるきり眼中になかったところが、何とも平八らしい喜びようであり。今日から引き換えとあったのでと、郵便局へ行こうと構えていたらしく、
「しかもしかも、これって…ほら。」
見せても支障がないものか、誰から来たものかと、お茶の湯飲みを置いてもらったところを避けて、そのはがきをテーブルへと置き、表書きを見せてくれた平八だったが、
「…あれ?」
「ふふふvv」
いつにも増してのえびす顔、嬉しくて嬉しくてという笑顔は、微妙に…言われずともこちらへも寄ってご報告する気でおりましたということも匂わせており。というのが、
「久蔵殿が出したもの?」
「ええ。」
見覚えのある字だし、住所も間違いなく此処のそれ。となると、同姓同名の別人ということはまずなかろう。
「すぐのお隣りなんだし、現に元旦にもすぐさまお顔を合わせましたのにね。」
なのに、わざわざ出して下さったなんて可愛らしいなぁなんて、ゴロさんとも のほのほと話していたところが。
「ウチへ来た今年のはがきの中では、一等賞な高位当選でしたっ。」
パンパカパンとファンファーレを奏でたそうな平八ほど、七郎次の側は何故だかあんまり喜べないらしく、
「あの人のくじ運はどこまで良いのやらですねぇ。」
ちょっぴりしょっぱそうなお顔をして見せており。ねえねえシチさん、今度こそ、久蔵さんにジャンボ宝くじを買ってもらいましょうよと身を乗り出した平八だったのへ。やですよぉ、まだまだ先の長いお人だってのに、こんな形で運を使い果たしてどうしますか、と。こっちも相当に本気で案じておいでのおっ母様であったのだそうだったのだが。
その次男の手元へと届いた年賀状の中には、
選べる有名ブランド食材お取り寄せという三等賞がちゃっかりと。
しかも、木曽の実家へ届いたものも含めて20枚近くあったという、
微妙なくじ運をこちらでも発揮していたりして……。
〜Fine〜 10.01.26.
*日記に書いただけじゃあ収まらず、
お話としてまで書き下ろしてしまいました。
ヘイさんには微妙にいろいろと筒抜けの島田さんチです。(笑)
それはともかく(いいのか?)、
七郎次さんへ当たった葉書をいつ渡そうかと、
ドキドキしている久蔵さんだと思います。
どうかおっ母様、素直に喜んであげてくださいませvv
「でもね、久蔵殿。
お願いですから、ロト6とかには絶対に手を出さないように。」
「???。(???・頷)」
昔は、切手シートより上に、
便せんと封筒の手紙セットとかいうのもあったんですよ。
結構立派な蓋つきのケースで、
カーボンディスクのLPくらい大きくて、
便せんと封筒がセットされてただけじゃなく、
切手やペンを収めとく場所とか、プラスチックで仕切られていて。
えらい大層なものが当たったんで子供心に喜んだものの、
後で考えりゃ、それへかかった分の切手シートをもらった方が、
使い勝手はよかったかもでした。(転校前のガッコの子と文通もしていたし。)
*別の島田せんせいのお宅でも、
年賀状はたくさん届いていることでしょうね。
編集部に届いていたのも回って来ての、毎年当たってないかを調べるのが、
七郎次さんと担当の編集員のヘイさんのお仕事だったりして。
「にゃ?」
「あ・これ、玩具にしてはいけませんよ、久蔵。」
もしかして三等の、ブランド食材っていう、
美味しいものを取り寄せられる券が当たっているかもしれない。
にゃあ?
そうそう、お口に入れる何かですよ?
うまうまうま…そうそんなお顔ができるものvv
当たっていたらいいですよねぇ?
“シチさんて、久蔵くんとそこまで会話出来るんだ。”
ペットと会話出来る女性っていうの、テレビで見たけど、
シチさんも同じ波長のお人なんだろか。
「ヘイさん?」
「あ? あ・いやあの、
そうそうそう、いつぞやの写真集への感想や要望のはがきに、
久蔵くんへのファンコールがたんと来てましたよ?」
あれも年賀状で来てれば良かったですかね。
いやいや、もうこんなにいただいてるのに、これ以上は罰が当たります。
…って、これ久蔵ってば いけませ………って、あ、それっ!
に、にゃっ?! (び、びっくりっ)
……なぁんつって。お後がよろしいようで
めるふぉvv 


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